ArcRefine
タンパク質の働きを変えるには、ただ結合するだけでなく、狙った場所に結合することが大切です。例えば、別のタンパク質との相互作用を妨げるために、その相手が結合する面をふさぐ方法があります。そこで使う小さなタンパク質「バインダー」を設計するとき、結合する場所と向きを保ちながら、配列を改善することはできるでしょうか。
FoldArcでは、既存のバインダー設計を改善する手法「ArcRefine」を開発しました。構造予測の中にある情報を配列の更新ごとに引き継ぐ「structural carryover」という仕組みを使います。アミノ酸の約3分の2を書き換えながら、多くの設計で元の結合配置を保てることを計算で確認しました。TNFαを標的とした実験では、最適化した10個中6個で結合を確認しました。

既存の設計手法をつなぐ
RFdiffusionやBoltzGenは、標的の狙った場所に合うバインダーの形を生成できる手法です。一方で、実験で結合する候補を得るには、多数の設計を作って絞り込む必要があります。例えばBoltzGenでは、標的あたり1万〜6万個の設計を生成することが推奨されています。
BindCraftは、構造予測を使って配列を少しずつ更新する手法です。構造予測モデルが確からしいと判断する構造へ改善を進め、実験でも高い成功率が報告されています。ただし、狙った場所への結合を保つことは容易ではありません。「指定した場所に形を作る」ことと「その配置を保って配列を改善する」ことの間には、まだ課題が残っています。
今回の狙いは、生成した結合配置を保ちながら、構造予測を使った配列改善を進めることです。
配列を変えても、構造の情報を引き継ぐ
ArcRefineは、structural carryoverという構造情報の引き継ぎを使って、既存のバインダーの配列を最適化します。最初に元のバインダーと標的の構造をBoltz-2で予測し、その予測の内部にある構造情報を保持します。その後は、配列を更新するたびに直前の構造情報を次の予測へ渡します。毎回ゼロから予測し直すのではなく、前の配置を手がかりに改善を続けます。構造を固定するわけではないため、配列と構造はともに変化できます。
計算と実験で確かめたこと
PD-L1とTNFαについて、アミノ酸の約3分の2を変更した後も、多くの設計が元の結合配置を保ちました。これは、引き継いだ情報を与えずに改めて構造を予測して確かめた結果です。最適化に使っていない6種類の構造予測モデルでも、結合部分の予測信頼度が平均で上がりました。
実験では、TNFαで最適化群10個中6個、未最適化群10個中1個が結合しました。PD-L1では、それぞれ10個中4個と1個でした。各群は独立に候補を選んでいるため、この実験は設計工程全体の比較です。Structural carryoverだけの効果や、予測した位置に実際に結合しているかは、この結果だけでは分かりません。
DNAや小分子を相手にした再設計も計算で試していますが、こちらの結合はまだ実験で確認していません。
論文とコード
詳しい比較条件、評価方法、結果は論文ページにまとめています。補足データ、PDF、Zenodo、コードも、論文ページから開けます。
コードはPolyForm Noncommercial 1.0.0の条件で非商用利用が可能です。商用利用の許諾はken@foldarc.comまでお問い合わせください。第三者由来の部分は元のライセンスを維持します。
FoldArcでは、この手法をバインダーの設計に活用しています。
引用
Osumi, K. ArcRefine improves de novo binder designs while preserving binding modes. FoldArc (2026).